離岸流について〜長岡技術科学大学水工学研究室

離岸流について
〜離岸流の写真,調査,発生のメカニズム,シミュレーション〜

最終更新日 Jul 19, '16

質問・意見等: 環境社会基盤工学専攻 犬飼 直之

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    [CONTENTS]

    1. はじめに

    2. 可視化した離岸流の画像・動画

    3. 離岸流とは
            (1) 離岸流が発生する海象および流れの種類
            (2) 離岸流の発生メカニズム
            (3) 発生する離岸流の大きさ,流速
            (4) 流速 1m/sに逆らって泳ぐのに必要な体力
            (5) 離岸流発生場所の特徴
            (6) 波高と離岸流の流速の関係
            (7) 離岸流について(まとめ)
    4. もし離岸流に巻き込まれたら
    5. 離岸流の発生パターン
            ・砂浜海岸
            ・突堤付近
            ・離岸堤付近
            ・崖など入り組んだ地形


    ※ 著作権は全て水工学研究室に帰属します.無断転載を禁じます.





  1. はじめに
  2. 夏本番になり気温が上昇すると,世界中のどこの地域でも人々が海岸へ集まり,海水浴やサ−フィン等をして楽しみます.そういう意味では,海岸は人々の娯楽に欠かせない貴重な場所です.
    しかし,その楽しい場所も,時には悲惨な事故現場となります.毎年多くの人が海水浴中の事故等で亡くなっており,日本国内では年間約200名以上の尊い人命が失われています.
    この事故原因にはいろいろありますが,その原因のひとつに『離岸流(りがんりゅう)』に流されたということがあります.
    『海水浴中,いつの間にか沖へ流され溺れてしまった』 というニュースを見聞した人は多いと思います. 実は,この流れが『離岸流 (Rip Current) 』なのです.

    では,この「離岸流」とは何なのか.この流れを事前に見分けることは可能なのか. また,もし不運にもこの流れに遭遇してしまった場合にはどうすればいいのか.
    このページでは,そういうものを解説します.

    このページを海に遊びに行く前に是非ご覧いただき,事故防止に役立てていただければ幸いです.

    事故防止の知識を活用し,ご家族・ご友人と,夏の海辺の楽しいひと時をお過ごしください.



  3. 可視化した離岸流の画像・動画
  4. 押しては引く振動する波浪で生じる流れなので,振動しながら一方向へ移動します.
    離岸流が発生する場所では,波高20-30cm程度でも微弱ですが離岸流は発生します.
    特に波高40cm程度以上になると顕著に流速が増大します.
    また,地形によって同じ波高でも発生する離岸流の流速が大きくなることもあるので注意が 必要です.

    本研究室では,航空写真・動画は80m-100mの上空から撮影しています.
    通常,砂浜の上に20m間隔にスケールとなる白色や赤色のターゲットマーカを設置している ので,その長さを参考にしてください.

    波高
    写真・動画
    離岸流の種類
    0m-
    0.2m

    有義波高0.15m,周期4.3秒
    波向:画面左斜め上方から入射
    平均流速10cm/s
    画像クリックで動画再生(YouTube)

    UAV(ドローン)で空撮


    機動救難士が離岸流に漂流しながら撮影

    海上保安庁の機動救難士の方にカメラを持ち,離岸流に流されてみていただき ました.
    突堤横の腰下くらいの水深から入水しました.秒速10cm程度の流速ですが,突 堤沖へ流され,更に突堤を越え反対側の沖まで流されました.

    小さなお子さんからちょっと目を離した隙に 沖へ流されてしまうので,絶対に目は離さないでくださ い.

    画像クリックで動画再生(YouTube).


    突堤横の離岸流

    左方向からの海岸に平行な流れが突堤で遮られ,そこへ集中した流れは沖へ流出 します.
    海岸沿いの流れを遮蔽するので,離岸流の流速は同じ波高でも他のパターンと比較 して大きくなります.
    このケースでも,小さい波高ですが10cm/sの流速で,1分 間で6m進行しました.
    小さなお子さんからちょっと目を離した隙に 沖へ流されてしまうので,絶対に目は離さないでください.

    0.2m-
    0.3m

    有義波高0.30m
    波向:画面右斜め前方から入射
    平均流速33cm/s
    画像クリックで動画再生(YouTube)

    UAV(ドローン)で空撮


    大きく湾曲した地形の奥部の離岸流

    海岸に平行な流れが発生できずに湾奥へ集中します.
    そのため,離岸流の流速は同じ波高でも他のパターンと比較して大きくなります.

    0.3m-
    0.4m

    有義波高0.38m,周期3.6秒
    波向:画面右斜め上方から入射
    平均流速(海面着色剤散布場所):27cm/s
    画像クリックで動画再生(YouTube)

    UAV(ドローン)で空撮


    カスプ地形の先端部付近の離岸流

    カスプ奥部へ集中する波浪が波向の影響でカスプ先端部へ集中し,先端部付近か ら斜めに流出する離岸流です.
    汀線よりも水底側に大きなカスプがあり,その等深線に沿ってカスプ 先端部から離岸流が流出しているイメージです.
    また画面右上方から波浪が入射しており,その振動の影響を受け,離岸流は ノコギリ歯状に振動しながら画面左上方向へ流出しています.

    0.4m-
    0.6m

    画像クリックで動画再生(YouTube)
    UAV(ドローン)で空撮

    有義波高0.52m,周期3.4秒
    波向:画面左斜め上方から入射
    平均流速(海面着色剤散布場所):33cm/s
    画像クリックで動画再生(YouTube)

    陸上から撮影


    カスプ地形の先端部付近の離岸流

    カスプ奥部へ集中する波浪が波向の影響でカスプ先端部へ集中し,先端部付近か ら斜めに流出する離岸流です.
    汀線よりも水底側に大きなカスプがあり,その等深線に沿ってカスプ 先端部から離岸 流が流出しているイメージです.
    波浪の入射が海岸に直角に近いため,離岸流の流出方向も直角に近くなります.
    カスプの先端部付近では流れが滞留しています.
    沖合いで右向きに流向が変化し,さらに一部は岸向きの流れとなりますが, これは離岸流ではありません.並岸流や向岸流などといいます.
    0.6m-
    0.8m
    0.8m-
    1.0m

    有義波高0.96m,周期6.5秒
    波向:画面右斜め上方から入射
    平均流速(海面着色剤散布場所):90cm/s
    画像クリックで動画再生(YouTube)

    UAV(ドローン)で空撮


    流下方向に突堤があるカスプ地形の先端部付近の離岸流

    カスプ奥部へ集中する波浪が波向の影響でカスプ先端部へ集中し,先端部付近か ら斜めに流出する離岸流です.
    また画面左側の離岸流流下方向に突堤があり,その影響を受け,離岸流は更に沖 向きへ流出します.
    1m-
    2m
    2m以上

    有義波高2m以上

    川のような流れの離岸流場です.
    海面着色剤がすごい勢いで流れているのがわかると思います.
    腰から下までの水深の場所での作業ですが,ここでも急流で, これ以上の深い場所は危険です.
    流速が大きいので,足を大きく開き重心を落として,波の動きに注意しながら作業し ていました.
    この時の平均流速は1m/s以上でした.
    雨風が強く,UAVでの撮影をすることはできず,陸上から撮影した動画です.
    画像クリックで動画再生(YouTube).


    川のように流れる離岸流場内の映像

    船の航跡のように見えますが,一箇所に立ち,定点から撮影しています.
    流れの激しさが分かると思います.
    波高が少しでも大きいときは決して海に入ら ないようにしてください!

    画像クリックで動画再生(YouTube).


    離岸堤が沖にあるカスプ地形の先端部付近の離岸流

    離岸堤と離岸堤の間から波浪が入射し,砂浜付近では波浪がカスプ地形へ斜めに 入射するパターンとなります.




    観測の詳細は「6.離岸流の観測」へ.



  5. 離岸流とは
  6. 離岸流は,海岸で生活する人やサーファーたちにはその存在は知られており,特にサーファーなどは逆に楽に沖に出るために離岸流を利用することもあります.

    (1) 離岸流が発生する海象および流れの種類

    ところで、離岸流はどういう種類の流れに分類されるのでしょうか.
    実は,離岸流は「波浪」によって生じる「海浜流」の一種です.よって,波の動きにあわせ数秒ごとに流向や流速が大きく変動します.
    下図は,波の影響を受け,左右に振動しながら沖へ流出する離岸流です.

    図 波浪の影響を受け振動しながら流出する離岸流


    また,下図は,数値シミュレーションで求めた離岸流です.
    上図のベクトル(矢印)は,平均流速と流向を表します.図中,場所によって沖向きの流れと岸向きの流れとなっています.このうちの沖向きの流れが「離岸流」です.更に,下図は,上図の白丸点における1分間の流向・流速の時間変化を示します.図より,流向は時間経過で沖向きや岸向きに振動しますが,平均すると沖向きに約20 cm/sの流速となります.
    このように,離岸流は河川や潮汐のような一方向の流れではない振動流であり,平均すると沖に流出する流れです.

    図 離岸流のシミュレーション結果
    上図:離岸流場のベクトル(平均流),下図:赤点での流速の時間変化


    よって,離岸流の発生条件は波浪の状態に強く影響を受けます.つまり,時間によって離岸流の発生状況が変わることもあります.
    よって海に入るときは,その場所で離岸流が発生しているかどうかを常に見極めることがとても大切なのです.

    下図は,同じ場所ですが,午前と午後の3時間ほどの差で,波向きが変わり,離岸流の流出方向が変化したケースです.

    図 波向の変化で離岸流の流向が変化した例
    左図:午前,右図:午後


    (2) 離岸流の発生メカニズム

    波は沖から海岸に入射しますが,下図に示すように,海岸地形に褶曲があると,海水は褶曲の奥部などに集中します.集中した海水は沖へ流出しなければならないので,最終的には沖へ流出する「通り道」が生成します.この流れが「離岸流」です.
    特に,図のように汀線が上下・前後に褶曲するような地形をカスプ地形といいますが,カスプ地形が存在する海岸では,低い場所へ波が集中することにより離岸流が発生しやすいと考えられます.

    波が海岸に垂直に入射する場合

    波が海岸に斜めに入射する場合

    図 離岸流発生メカニズム(砂浜海岸)


    (3) 発生する離岸流の大きさ,流速

    既往の研究成果より,離岸流が発生する場合,その大きさは海底勾配や波浪の条件などで把握できます.
    実際には,離岸流の長さは,最大で砕波帯幅の1.8倍程度となり,長さ100 m,幅10〜30 m,流速1 m/s以上になることもあります.
    砕波帯の幅は海底勾配が緩いほど大きくなり,それに関連して離岸流も大きくなります.
    図-4は波高1 m程度の時の離岸流の流速例です.図より,汀線に近い場所で流速が大きく,沖に出るほど流速が小さくなります.また、沖に出た流れはその後向きを変え,岸向きの流れ(向岸流)となります.このように、離岸流の発生する近くでは向岸流が発生しており,2つあわせて循環流が生成していることが多いです.

    図 離岸流の流速分布


    また、離岸流は1箇所だけで発生するわけではなく,ビーチカスプが連続する海岸では,入射する波の長さ(波長)の2〜6倍程度の間隔で離岸流が幾つも発生します.
    よって海に入る時には,どこで離岸流が発生しているかを常に見極めることがとても大切です.

    (4) 流速 1m/sに逆らって泳ぐのに必要な体力

    ところで,上図における約1 m/sという流速は時速に換算すると3.6 km/hであり,人の歩く速さと同じくらいです.
    この数字を見て「意外と遅い」と感じる人も多いと思います.しかし,これは25 mプールを25秒で泳ぐのと同じ速さです.この速さで泳いでも同じ場所にとどまるだけで,岸に戻るためには,更にそれ以上の速さで泳ぎ続けなければなりません.

    離岸流に逆らって泳ぐためには,いったいどれくらいの体力が必要か,簡単に計算してみましょう.

    1m/sの流速の離岸流で20m流されたので,この流れに逆らいながら戻る場合

    自分の泳ぐ速さ:25mプールを20秒で泳ぐ速さ=1.25m/s仮定
      (私もジムで泳ぎますが,私のほぼ全速のスピードです.笑)

    離岸流の流速: 1m/s (25mプールを25秒で泳ぐ速さ)
    流速差=1.25m/s-1m/s=0.25m/s

     ⇒つまり,離岸流の流速に逆らって泳ぐ速さは0.25m/s
       (1m進むのに4秒かかります.)

    この状態で20m泳ぐために必要なタイム:20m/0.25m/s=80秒

    流れのない(流速=0)場所で80秒泳いだ場合の移動距離:1.25m×80秒=100m

    つまり,100m泳ぐエネルギーが必要となります.

      (25mプールを20秒で泳ぐ速さで80秒間泳ぎ続け,100m移動する体力が必要)

    いかに離岸流の流れに逆らって泳ぐのが大変かわかるかと思います.


    (5) 離岸流発生場所の特徴

    波が複雑に挙動する海岸では,離岸流の発生場所を見つけるのはなかなか難しいのですが,それでも発生場所では幾つかの特徴があります.
    例えば,下図のように,砕波状況が周りと異なっていたり,水面が細かく乱れていたりします.

    図 離岸流発生場所の水面の特徴


    また,下図のように砂浜のカスプ地形の奥まった場所を基点に波の入射方向と反対方向へ離岸流が発生していることが多いです.

    図 離岸流発生場所の水面の特徴


    (6) 波高と離岸流の流速の関係

    離岸流の流速は波高に応じて変化します.
    つまり,波が比較的穏やかな時でも小さい流速ですが離岸流は発生します.
    流速が小さくても,数秒間で数メートル流されてしまうので,小さいお子さん連れの場合などでは,たとえ波高が小さくても油断せずに絶対に目を離さないように注意することが必要です.

    (7) 離岸流について(まとめ)

        (寄せて引く波:振動流によって生じる流れ
        岸から沖方向への強い流れ
            ・寄せて引く波(振動流)を平均すると沖向きの流れになる.
              (一方向流ではない)

        「シミュレーション」で説明

            ・流速は大きいもので毎秒2m (時速7.2km)程度
            ・強い流れのは大きいもので5m程度

        「観測」で説明

        流れが集中する場所
            例えば...
            1. 構造物付近 (海岸から沖へ直角に突き出た突堤など)
            2. 砂浜海岸で...
               ・汀線(海岸線)が円弧状に屈曲している場所
               ・砂浜上面がデコボコ状に波打ってる場所
            など...

        「発生パターン」で説明


        離岸流付近では,波が細かく振動していたり,流出したで海水が汚濁していることがある





  7. もし離岸流に巻き込まれたら
  8. ・まず落ち着くこと.パニックに陥るのが一番危険です.
    ・そして次のどちらかを実行してください.

    ■方法1
      横方向に泳ぎ離岸流からはずれる.(右図参照)
      (決して流れに逆らって岸方向に泳がない)

      「流速 1m/sに逆らって泳ぐのに必要な体力」参照


    ■方法2
      離岸流頭まで流れに身を任かす
      流れを感じなくなったら岸に向かって泳ぐ


    ※ どうしてこの方法がいいのかは「5.離岸流の発生パターン」で説明します.




  9. 離岸流の発生パターン
  10. 離岸流はどのように発生するのでしょうか.ここではその発生パターンを解説します.

    海水は波によって沖から海岸に打ち寄せられますが,海岸に打ち寄せられた海水は沿岸流 (※1) となり,湾曲部の奥部などに集中します.
    その結果,水位差などにより,そこから沖へ流れ出る流れが生成し, 最終的には侵入してきた海水がある場所から流出する「通り道」が生成します.
    この沖へ流出する流れが「離岸流」です.

      (※1)
      最近では「沿岸流」と言われる場合が多いですが,海洋学では『並岸流』と呼称する場合もあります. ( 日本海洋学会誌,15,1959,p.151参照 )

    離岸流が発生した場合,その規模は波高や地形の条件などにより様々ですが,大規模なものでは,幅で10〜30m, 流速は毎秒2m以上になることもあります.
    毎秒2mという速さは,時速に換算すると7.2km/hで人の早歩きの速度と同じくらいです. この数字を見て「意外と遅いんじゃん」と思う人も多いと思います. しかし,これは急流の河川の中にいるようなもので,この流れに逆らって泳ぐことは困難です.

    「流速 1m/sに逆らって泳ぐのに必要な体力」参照

    離岸流は,元々は下に示すような「砂浜海岸」で発生することが知られていましたが,最近では突堤など海岸に鉛直に突き出た構造物で 沿岸流の流れが遮られ,そこで離岸流が発生するなどの従来にはなかったパターンの離岸流も発生す るようになりました(※2)

      (※2)
      近年では,新潟県沿岸域でも従来タイプの他に突堤付近での事故も頻発しています.


    • 砂浜海岸

    • 砂浜海岸は一直線だけではなく,沖方向へ少し突き出ていたり,逆にくぼんでいたりする褶曲した地形(カスプ地形)が多く存在します.


      波浪が海岸へ直角に入射する場合

        波浪はカスプ地形の奥部に集中し,集中した水は沖へ流出を始め,これが離岸流となります.
        また,波は浅い方向へ回折する特性があり,波は先の尖った部分へ集中します.ここでも離岸流が発生します.
        ここへは褶曲奥部で発生した離岸流が合流することもあります.


      波浪が海岸へ斜めに入射する場合

        カスプ奥部へ集中する波浪が波向の影響でカスプ先端部へ集中し,先端部付近か ら斜めに流出する離岸流です.

    • 突堤付近

    • 海岸が直線状の場合

        突堤付近で一方向の沿岸流が発生し,突堤の根元に集中します.
        集中した水は突堤の横を一気に沖へ流出します.
        流速も大きくなるので特に注意が必要です.
        最近ではこのケースによる事故が多発しているようです.

      海岸に褶曲地形(カスプ地形)が存在する場合

        砂浜の離岸流同様,カスプ地形の先端部でも離岸流が発生します.また,流下方向の突堤へも波浪が集中し,突堤の横を流出する離岸流が発生します.

    • 離岸堤付近
    • 離岸堤の背後では,回り込む循環流が発生し,流れの集中によりカスプ地形が発達します.


      波浪が海岸へ直角に入射する場合

        離岸堤の背後では,回り込む循環流が発生し,沖向きの離岸流となります.
        しかし,離岸堤があるのでまっすぐ沖には流出せず,離岸堤を避けて分岐して流出します.


      離岸堤が複数あり,波浪が海岸へ斜めに入射する場合

        離岸堤と離岸堤の間から波浪が入射し,砂浜付近では波浪がカスプ地形へ斜めに入射するパターンと同様な離岸流が発生します.

    • 崖など入り組んだ地形

    • 砂浜海岸と違い,水深が深いために回折をせずに地形の奥部へ波が集中します.
      これにより集中した水は沖へ一気に流出します.



  11. 離岸流の観測
    • ■UAV(ドローン)を用いた海面着色剤散布実験

      本研究室では,新潟県内などの海岸で離岸流調査をおこなっています.
      ここでは海面着色剤を散布する事により離岸流を可視化して観測をおこなった例を紹介します.

    • 観測日・場所など

    • 観測場所:新潟県北蒲原郡聖籠町網代浜
      観 測 日 :平成26年-2014年9月17日(水)

      観測時有義波高:9.8m,周期:5.8s

    • 観測機材

    • 観測結果
    • 下の写真は海面着色剤の散布状況です.
      このように着色した離岸流が拡散する状況を,UAV(または「ドローン」)を用いて上空から撮影しました.

      このときの流速分布を示します.海岸付近で一番流速が大きく,沖に出るほど流速が小さくなります.

      この流速分布の求め方ですが,下の写真は散布後1分半,2分,3分半の拡散状況です.
      写真より,30秒間で約20m進行しているのがわかります.この時の平均流速を求めると0.7m/s程度となります.
      このとき着色剤を腰の深さくらいの水深で散布していましたが,強烈な沖向きの流れを感じていました.

      散布後1分半

      散布後2分

      散布後3分半

      観測時動画1 (YouTube)

      観測時動画2 (YouTube)


      ■メモリ式GPS浮標追跡調査

      上で紹介した海面着色剤を利用できない調査などでは,メモリ式GPSを利用した浮標を海に放流し,漂流することにより得られた軌跡から離岸流の規模や速さなどを求めることもあります.
      ここでは,この観測例を紹介します.

      観測場所は,下図のように椎谷漁港の突堤横で実施しました.
      ここは長岡から近い海岸で,気軽に行くことができることから観測技術の向上の目的で利用しています.

      Fig. 観測場所(新潟県柏崎市椎谷)

      Fig. 航空写真(新潟県椎谷漁港,新潟県HPより転載)

    • 観測機材

    • Fig. 観測に用いた機材(左:紐,中央:浮標,右:GPS)
      (GPSを浮標内に組み込み海水へ投入し漂流させ位置の移動情報を取得する)

    • 観測結果

    • Fig. 観測結果(2005年12月8日)

      Fig. 観測結果(2006年1月14日)





  12. 離岸流のシミュレーション
  13. 実際の海岸や写真などからでは離岸流を見ることが難しいので,シミュレーションを行い流れの可視化を行いました.
    波浪条件は,新潟の砂浜海岸を想定し,有義波高1m,周期9秒の波浪を入射させました.
    また,地形は一様勾配としましたが,砂浜および離岸堤のケースでは実地形同様に約70m毎に小さな谷をつけました.

    砂浜の離岸流のシミュレーション



    離岸流が発生している波浪アニメーション.

    波浪の水位変動アニメーションに水深と,このときの離岸流ベクトル図を重ねたもの.
    ベクトル図を見ないと離岸流が発生していることがわりません.



    離岸流の波浪場で,離岸流が沖へ向かう場所から染料を放出したケース.

    離岸流ベクトルに従って沖へ流出します.



    離岸流の波浪場で,離岸流が岸へ向かう場所で染料を放出したケース.

    離岸流ベクトルに従って,岸方向へ進行しますが,沖向きの流れにかわった場所から沖へ流出します.

    突堤横の離岸流のシミュレーション


    離岸流が発生している波浪アニメーション.

    波浪の水位変動アニメーションに離岸流ベクトル図を重ねたもの.
    ベクトル図を見ないと離岸流が発生していることがわかりません.



    突堤横の離岸流の波浪場で,染料を放出したケース.

    離岸流ベクトルに従って,突堤横を沖方向へ進行します.

    離岸堤付近の離岸流のシミュレーション


    離岸流が発生している波浪アニメーション.

    波浪の水位変動アニメーションに離岸流ベクトル図を重ねたもの.
    ベクトル図を見ないと離岸流が発生していることがわかりません.



    離岸流の波浪場で,離岸流が岸へ向かう場所で染料を放出したケース.

    離岸流ベクトルに従って,離岸堤横を沖方向へゆっくり進行します,小さい循環流で岸向きへ進行する場所もあります.



    上図は流れを平均した流況図です.
    図中,矢印(ベクトル)は,平均した流れの向きと大きさを表します.場所によって,沖向きの流れと岸向きの流れ場があることが分かります. この沖向きの流れが離岸流です.
    このように,離岸流は平均をすると沖に流出する流れですが,実際にはいろいろな波浪が複雑な挙動をしているので,よく観察しないと分からない,とても危険な流れであることが分かります.




  14. 新潟県沿岸域の事故履歴
    • 新聞記事データベースによる調査
    • 新聞記事データベースによると,1987年から2005年までの期間で新潟県内で発生した海浜事故のうち,離岸流によるものと 考えられる事故は下図のような場所で発生していました.

      また,これらの事故のうちの大部分が,海岸から鉛直に突き出た地形や突堤付近で発生していることが分かりました.


      Fig. 海浜事故の発生場所および件数(新聞記事データベース,1987〜2005年)


    • 事故発生前後の波浪状況

    • 上の調査で判明した事故発生時の気象・海象状況を調査しました.
      結果例として2002年8月および2004年8月の新潟県直江津港付近の波高の経時変化および 波向の出現頻度を示します.
      図中,点は直江津周辺海域で事故が発生した時間を示します.
      経時変化図より,事故はいずれも波高1m以下の低波浪時ですが,急激に波高が変動する直前や直後に 事故が発生していることがわかります.

      また,出現頻度表の左図より,この期間では北北西の波向が特に卓越していることがわかります. また右図より海浜事故も北北西の波向時に発生していることがわかります.


      Fig. 直江津の波高の経時変化(2002年(上)と2004年(下) は事故発生)


      Fig. 直江津の波向の出現頻度(左:2002-2004年8月,右:事故時のみ)


      上図の情報のうち,特に2004年8月の1ヶ月について気象・海象の経時変動を重ね合わせると次図のようになります.
      図中,波高・周期は新潟県直江津港付近の波浪観測データ,風速は新潟県直江津港付近の客観解析データです.


      Fig. 直江津の気象・海象の経時変化(2004年8月,は事故発生)




  15. 新潟県沿岸域の波浪特性
    • 波浪推算および結果の検証

    • 2004年8月の1ヶ月の期間の波浪推算シミュレーションを実施しました.
      考え方は,日本海全域に風を吹かせて波浪を発生させるという手法です.発生した波浪のうち, 新潟県沿岸域へ到達するものを観測データと比較をして,シミュレーションの正確さを検証しました.
      下図は,直江津港における計算結果と観測データの比較です.両者ともよく一致している事がわかります.

      これより,数値シミュレーションでも波浪の経時変動を正確に把握することができることが確認できました.


      Fig. 観測データとの比較(波浪経時変化,2004年8月直江津,上:波高,下:波向)
      (Nowphasは観測,SWANは計算結果)


    • 新潟県沿岸域の波浪特性

    • 前節の手法を用いて新潟県の波浪特性を計算しました.
      そのうち,ここでは,ある時化が来襲している時の新潟県沿岸域の波浪状況を示します.

      これらの図より,時化(高波高時)には北東から波が入射してくることがわかります. また,佐渡の影となる寺泊〜角田浜では他地域よりも静穏部になっていることが分かります.


      Fig. 波浪状況(2004年8月20日,直江津,左:波高,右:波向)


      Fig. 新潟沿岸域の波高分布(2004年8月20日)
      (佐渡の影響で寺泊〜角田浜では波高が低くなっています)

      また,冬季についても波浪推算を実施しました.下図に期間中の波向き出現頻度を示します.
      これより,冬季においても北西からの波向が卓越していることが分かります.

      これらの結果より,新潟県沿岸域では,季節に関係なく通年(一年中)同様な方向(北西)からの波浪が卓越する ことが分かります.


      Fig. 波向き出現頻度(左:直江津港付近,右:新潟港付近,2003年12月)


    • 新潟県の離岸流はいつでも発生する?

    • 以上の結果をまとめると,新潟県沿岸域の波浪特性は,波高にあまり関係なくいつも同じ波向きと なる事がわかりました.

      これはどういう事かを考えると,離岸流が発生しやすい場所では,気象や波浪の状況に左右されずに 常に発生している可能性が高いという事がいえます.

      よって,危険とされる海岸や遊泳禁止とされる海岸では,どんなに穏やかに見えても離岸流が発生していると 考えるべきであり,遊泳などは非常に危険で絶対にしてはいけない事である事がわかります.




  16. 新潟県の離岸流事故まとめ


  17. 離岸流に関する研究について
    • 離岸流は,不規則波の影響で沿岸流が汀線方向に一様でない条件で発生すると考えられ,様々な理論が考えられてきましたが,実際には離岸流は褶曲地形などの海岸で発生することから,実海岸での適用には様々な問題がありました.

      しかし,近年の波浪数値シミュレーション技術の向上により,離岸流場を把握できるようになり,更に,近年のドローン(無人航空機)の登場により,上空から手軽に観測できるようになったことなどで,理論と実現象の実証が比較的容易にできるようになりました.

      しかし,どこでどのように離岸流は発生するのかを理屈で理解しても,波が複雑に挙動する海で離岸流の発生場所を見つけるのは慣れが必要であり,これが事故防止になかなかつながらない原因の1つとなっていると考えられます.


      離岸流に関する研究成果(発表論文)

      1. 犬飼直之,小宮和樹,福元正武,石野芳夫,坂井良輔,"ADCP移動観測による内灘海岸における離岸流の計測",土木学会,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol. 72,査読通過,2016.
      2. Naoyuki Inukai, Yoshifumi Ejiri, Takeshi Ootake and Hiroshi Yamamoto,"A Study on the Generation Mechanism of the Rip Current at the Enclosed Beach by the Groin",35th International Conference on Coastal Engineering,American Society of Civil Engineers,Vol. 35,in press,2016.
      3. Naoyuki INUKAI, "New Method of Measuring Rip Current by Water Colorant and Drone", The 4th Workshop on the Water Rescue and Survival Research, The Society of Water Rescue and Survival Research, 2015.
      4. 犬飼直之,江尻義史,大竹剛史,山本浩,細山田得三,"新潟東港周辺における突堤で囲まれたカスプ地形海岸での離岸流の生成機構について",土木学会,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol. 71,No.2,I_1687-I_1692,2015.
      5. 犬飼直之,江尻義史,大竹剛史,山本浩,細山田得三,"両端を突堤で囲まれたカスプ地形を有する砂浜海岸における離岸流の生成機構について",土木学会,土木学会論文集B3(海洋開発),Vol. 71,No.2,I_1191-I_1196,2015.
      6. Naoyuki Inukai, Takeshi Ootake, Hiroshi Yamamoto and Tokuzo Hosoyamada,"A Study for the Generation Mechanism of the Rip Current at the Enclosed Beach by the Groin",Proceedings of the Annual International Offshore and Polar Engineering Conference,The International Society of Offshore and Polar Engineers,Vol. 25,pp.1359-1364,2015.
      7. 犬飼直之,大竹剛史,山本浩,細山田得三,"突堤付近における砂浜海岸での離岸流の可視化および発生予測について",土木学会,土木学会論文集B1(水工学),Vol. 71,No.4,I_715-I_720,2015.
      8. 犬飼直之,小宮和樹,米江駿介,"石川県内灘海岸における離岸流による海浜事故原因解明のための基礎的研究",土木学会,土木学会関東支部新潟会研究調査発表会論文集,第32巻,pp.176-179,2014.
      9. 犬飼直之,江尻義史,大竹剛史,山本 浩,細山田得三,"数値実験による離岸流の可視化について",土木学会,土木学会関東支部新潟会研究調査発表会論文集,第32巻,pp.180-183,2014.
      10. 細山田得三,村川はるみ,犬飼直之,"離岸流と地形変形の相互作用に関する数値計算",土木学会,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.67, No.2,pp.1_556-1_560, 2011.
      11. 村川はるみ,細山田得三,犬飼直之,"離岸流と地形変形の相互作用に関する数値計算",土木学会,土木学会関東支部新潟会研究調査発表会論文集,第29巻,pp.114-117, 2011.
      12. 犬飼直之,木下茂生,橋本融,山田文則,"海浜事故防止のための波浪推算および調査に関する研究",土木学会,海洋開発論文集,第23巻,pp.667-672, 2007.
      13. 木下茂生,犬飼直之,細山田得三,"新潟県の海浜事故防止のための基礎的研究",土木学会,土木学会年次学術講演会要旨集,第61巻,2006.



  18. 調査・実践依頼について
    • いろいろな組織から離岸流に関する調査などについての依頼や質問をいただいています.

      基本的には,ご依頼いただければ,国内外どこでも調査に伺うスタンスをとっています.
      その場合の経費ですが,組織が国立大学法人なので,基本的には交通費や消耗品などの直接経費に3割程度の間接経費を加えた金額を,「研究助成金」として本学と契約する方式となります.

      内容は,現地調査をおこないデータを取得後,解析や数値計算をおこなって流動機構を明らかにするような手法になります.

      また,どうしても調査費用を計上できない組織からのご依頼でも,啓発効果が大きい場合や,人命にかかわることや国にとって重要な案件である場合には,こちらの研究活動の一環として調査を行わせていただくこともあるので,ご相談ください.




Copyright, 水工学研究室
環境・建設系
長岡技術科学大学
Nagaoka University of Technology

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