- 長岡市における地下水節水型消雪パイプ制御システムの実証試験
石川 有貴子
消雪パイプは湿潤な雪の除排雪方法として極めて有効である.しかし,地下水を大量に汲み上げて散水することから,冬季後期には地下水位が下がること,地盤条件によっては深刻な地盤沈下が発生することなどが欠点としてあげられる.
従来の消雪パイプは,地下水の揚水ポンプをオン・オフで作動するだけであり,その結果,無駄に地下水を汲み上げることになる.このような現状から,地下水節水型消雪パイプの発想が生まれた.すなわち,降雪強度計の出力によって,揚水インバータ制御をすることで使用する地下水の総量を節約しようとするものである.
本研究では,従来型と地下水節水型の消雪パイプを比較し,節水型の有効性を検証し,実用化への検討を行うことを目的とする.また路面消・融雪施設等設計要領に記載されている必要散水量算定式の各係数を検討することで,より効果的で簡易な融雪量算定方法の確立を目指すものとする.
節水型有効性実証試験の結果,節水型は従来型と比較し,揚水量,運転時間,電力量を1/2程度にできることがわかり,地下水節水効果とともに,省エネルギー効果も高いこともわかった.これより,節水型の有効性が明らかとなった.しかし,実用化に際して,設備コストが従来型と比べ高くなるという問題点もある.そこで,消雪パイプを管路として取り扱い、水理学的に検討を行った.圧力センサーによる地下水揚水量測定法の理論を検討し,超音波流量計で測定された実際の値と比較を行った結果,かなりの精度で一致した.さらに,この理論を節水型消雪パイプシステムに導入し、検証試験を行った。この結果,圧力センサーを用いても流量計を使用した場合と同等の値を得ることができた.これより,高価な超音波流量計の代替品として比較的安価な圧力センサーによる揚水量制御が可能であることが分かり,コスト対策に十分有効だといえる。
必要散水量算定式において,融解係数kは水源の違いにより,3つに分けられていた.そこで,融解係数をk′として,散水温と気温の差を乗じることで1つの数式で表わした.これにより,融解係数は水源に依らず,1つのものとして扱うことができた.さらに通行車両による撹はん効果係数αは,これまで交通量別にそれぞれ別々に示されていたが,交通量の関数として表わすことができ,より簡便化が図られた.また設計時間降雪深については,近年の冬期における降雪状況を十分に反映できるような検討を行った結果,今後数年の降雪データの収集と解析が必要である.
要旨( PDF形式, 101kb )
-
7.13水害時における刈谷田川河道内流れの数値解析
内山 智文
7月12日夜から13日にかけて日本海から東北南部にのびる梅雨前線の活動が活発化し、強い雨雲が新潟県中越地方に流れ込んできた。そのため13日朝から昼ごろにかけて新潟県中越地方の狭い範囲に集中豪雨をもたらした。栃尾市では421mm/日を記録した。
今回の豪雨の特徴は強い雨が集中して降ったために信濃川や刈谷田川などが短時間で急激に水位が上昇したことにある。この豪雨により、刈谷田川では6箇所、中ノ島川では2箇所、五十嵐川で1箇所、猿橋川で1箇所破堤した。人的被害としては、死者が15名、重傷者が2名。住家被害としては、全壊が29棟、床上・床下浸水13289棟と大きな被害があった。
本論文では、7.13新潟豪雨により大きな被害のあった刈谷田川を研究対象とし、水害時の刈谷田川河道内流れを不等流及び不定流であると仮定し数値解析を行い、水位観測所の観測地と比較を行い、検討する。
まず、刈谷田川の流れを不等流であると仮定して解析を行った。はじめに断面データを入力し不等流計算を行い、各断面での水位を求める。断面データとしては、信濃川と刈谷田川合流部から上流にむかって200mおきに24.6kmとした。データ断面数は133断面である。各断面で水深を最深値と同じ一定値として、断面積から堤防幅を決定した長方形断面と仮定する。流下距離200mに対して水位の変化が大きく、不等流計算が不安定になるので、線形補正を行い、各測線間隔を10分割してデータ数を10倍にした。
次に刈谷田川の流れを不定流であると仮定し、基礎方程式を陰型式差分法で数値解析を行った。はじめに断面データを読み取り、初期条件である水位を不等流計算で求めてから不定流計算を行う。断面データとしては、信濃川と刈谷田川合流部から上流にむかって200mおきに24.6km。データ断面数は133断面である。各断面で水深を最深値と同じ一定値として、断面積から堤防幅を決定した長方形断面と仮定する。流下距離200mに対して水位の変化が大きく、不定流計算が不安定になるので、線形補正を行い、各測線間隔を2分割してデータ数を2倍にした。
不定流における数値解析は、水位観測所での観測値との比較とよく一致していた。しかし、水位縦断図では、破堤箇所以外でも堤防高よりも水位が高くなっている。この理由としては、破堤した箇所より流出した流量を考慮していないこと、実断面を長方形断面と仮定して計算をしたこと、境界条件である合流部の水位と流量が観測されていないため、実際の水位と流量がわからないということ、などが考えられる。
要旨( PDF形式, 109kb )
-
広域閉鎖性水域の海水交換機構に関する研究
柄沢 篤志
閉鎖水域は穏やかな水域であることから,人間活動に非常に適した場となっている.しかし,経済成長と人口の増加に伴って生活排水,産業排水などが海域に流れ込み水質悪化を招いている.閉鎖性水域は人間にとって利用しやすい場所であるだけに,人為的な影響による環境悪化の危険に直面しているが,このような閉鎖性水域は世界のいたるところに存在する.
本研究では,世界の代表的な広域閉鎖性水域である渤海に着目した.近年,中国は急速な経済発展をとげているが,それに伴う過剰取水による深刻な水不足が生じている.これを解消するために「南水北調」が進められているが,黄河の流出水が増大することにより,黄河内の堆積物が多量に渤海に流れ込み,更なる水質の悪化が予想される.また,長期的には流出水が日本海沿岸域へ到達し水環境や水産資源に何らかの影響を及ぼすことが予想される.そこで本研究では,数値計算により渤海の主要な流動機構および物質拡散過程を把握し,長期的,広域的な環境変化予測に資することを試みた.
対象地域の渤海では潮汐流と吹送流が卓越している.また,南水北調に伴う河川からの流出水による密度流も生じる.そこで,準3次元モデルを作成し,この3つの主要流れの数値シミュレーションを行った.基本式には連続式と運動方程式を陽的に差分化したものを用いた.このモデルの精度確認を行った後,渤海海峡での海水交換機構を明らかにするために拡散計算を行い,潮汐流,吹送流,密度流の流動機構および海水交換に与える影響の把握を試みた.
本計算の解析結果より,渤海では潮汐流および吹送流が海水交換に寄与していたことを確認した.海水交換機構は,潮汐流では渤海内で反時計回りの水平循環流が形成され,吹送流では主に鉛直方向に海水交換が行われていた.吹送流による海水交換は,潮汐によるものよりも約2倍程度早く,吹送流は潮汐流よりも海水交換に与える影響が大きいということが明らかになった.特に風向は大きく海水交換に関与しており,冬季に吹く風が最も海水交換を早めていた.そのため,冬季の吹送流が海水交換を最も促進させる流れであることが明らかになった. また,「南水北調」で渤海からの流出水が増大することにより,渤海の海水が流出する速度は現在よりも速くなることが確かめられた.吹送流を考慮した場合,その速度はさらに速くなると予想される.このことから,今後は日本海沿岸海域を含めた広い範囲で海流および吹送流を含めた検討が望まれる.
要旨( PDF形式, 339kb )
-
海域環境シミュレーターの開発研究
岸野 八州雄
海洋において流体は位置によって密度が変化している。このような密度成層流体においては、均質な流体とは異なり密度が異なる境界面において内部波が伝播するといわれている。この内部波は大きなエネルギーを有し、沿岸海域に生成・伝播することにより水質環境や漁業形成に影響するのみならず底面流速を変化させることにより底泥輸送を促進することが示唆されている。
既存の研究においては例として有明海がある。有明海では2000年に海苔の不作が大きな問題となり諫早湾干拓の影響が取りざたされるようになった。その後、有明海の海域環境変化に関しては様々な機関が研究に取り組んでいるが干拓などの影響に目が向き、基礎的なプロセスに関する研究が十分ではないままに個々の事象を定性的に関連づけるだけに終わっている面も多い。生物が大きな役割を果たしているので難しい面も多いが、物理面に限っても不明確な点は少なくない。例えば、潮汐の振幅の減少が鉛直混合を弱め、それが成層を強めることによって生物環境に影響を与えている可能性について定量的な議論はない。従って個々の事象を理解するための流動シミュレーターが必要である。
よって本研究は基礎的プロセスである海水の混合に着目し、なかでも鉛直混合を強めることが示唆されている内部波の発生機構を理解するための沿岸海域における3次元流動・物質拡散数値シミュレーターを構築した。内容としては、水温、塩素濃度、密度の移流・拡散と、海水面における大気との熱フラックスを考慮したものとなっている。これにより、内部波の発生する条件を検証し、発生による水平、鉛直の流速と密度成層の挙動を可視化した。設定条件として、駆動力においては、入射派のみの場合、風力のみの場合、そして両方を駆動させた場合、また、流体の条件としては一様流体の場合、成層のある場合を考え、そして、地形に関しては海底に傾斜がある場合とそうでない場合を設定した。
その結果、海底の凹凸、成層の有無、若しくはその数、風力による効果などが内部波の発生メカニズムに影響を与えていることが明らかとなった。そして、内部波に伴って、水平流速、鉛直流速が増大し、新たな渦を発生させ、内部の流れに乱れを生じさせている様子を捉えることができた。また、鉛直流速の増大により密度成層に対して混合を促進し、底質輸送に対して少なからずとも影響しているという結論に達した。
要旨( PDF形式, 154kb )
-
低平地での降雨排水システムに関する数値実験
小島 輝久
輪中などを代表する低平地では、河川よりも土地の標高の方が低い。また、場所によっては海水面よりも土地が低いこともある。これらの土地に溜まった水はほとんど自然には排水されず、人工的に排水を行う必要がある。排水は地表面を流れる表面流出と排水路網による流れとに大別できる。
本研究では、排水管の流れと地上における2次元的な氾濫計算と組み合わせることで洪水時における水の挙動を計算する。そして、この結果をもとに排水設備の設置の提案および効率的な操作運転法の提言をし、降雨排水システムの開発につなげることを目的としている。
対象地域は、新潟市東部にある亀田郷と呼ばれる地域である。亀田郷は、信濃川、阿賀野川および小阿賀野川に囲まれた地域である。亀田郷の排水システムは、排水網により水を鳥屋野潟に集め、親松排水機場に送り、そこからポンプで信濃川に排水するというものである。
まず、基本的な管路の流れを把握するために、単純な管路を仮定し、特定の場所の水位を上昇させ、流れを伝播させるシミュレーションを行った。その結果、管路内で進入波と反射波が重なり合い複雑な波形となった。これは、短時間における水位変化が大きいということを意味している。
このシミュレーション結果を踏まえ、実地形における数値計算を行った。その結果、まず、流れの伝播速度が非常に大きいことがわかった。これから、排水の効果が短時間で領域全体に影響するということがいえる。また、流入点に対する流量が存在することから、管路の逆流が発生し、マンホールから地上に水が噴出する可能性があることがいえる。
また、実際の地形に降雨を発生させ、水深を計算するシミュレーションを行った。この結果、水深が大きい地域、すなわち浸水しやすい地域があることがわかった。
結論として、地下の管路網における流れの理解、および管路の逆流に起因する地上の氾濫の危険性が認識できたことがいえる。また、降雨時に浸水の被害を受けやすい地域が認識できたことがいえる。
本研究においては、計算モデルを作成する所期の目的を達成することができた。このモデルを使った効率的な排水機場の運転法について検討していきたい。
要旨( PDF形式, 193kb )
-
冬季日本海における波浪推算に関する研究
能登 雄太
波浪は、海洋および沿岸域の開発・防災にあたって、最も支配的な自然条件である。このため海域の波浪の条件を的確に把握することは重要である。長大な海岸線を保持するわが国沿岸の来襲波浪は、その海域に特有な局所的な地域性および気象擾乱タイプに起因するマクロな地域性を持っている。このことから、港湾・漁港・および海岸事業の計画・設計の実施に当たっては、対象施設が存在する海域の地域性(風特性、波浪特性、地形特性)を十分に考慮し、その海域において危険となる気象のタイプを把握し、対象海域の地域性を反映させた計画の検討を行うことが望ましい。本研究で対象とした、日本海領域では,季節風の影響で冬季間に比較的よく荒れている。このことから、十分有用に沿岸域を活用するには、冬季日本海の波浪特性を知ることが重要なことである。しかしながら、波浪は計測に困難を伴う海洋上の複雑な現象であることから、風や潮位などの他の気象海象データに比較して観測の歴史が浅く、実測データの蓄積が少ない。一方,最近では,気象情報の高精度化にともなって波浪推算法の高精度化が進んできたことから,波浪観測に代わる波浪情報の経済的収集手段としての信頼性の高い波浪推算法の高精度化が進んでいる。
そこで、本研究では、まず、日本海領域の気象・海象特性をとりまとめ、特性を理解した上で実用的観点から、冬季日本海において簡易に波浪を推算し概略値を求めることを目標にし、その後に、波浪観測に代わる波浪情報収集手段として,信頼性の高い高精度な波浪推算法を用い,日本海沿岸を対象とした冬期間にわたる波浪推算を行い、現地観測値とともに推算値を用いることで,日本海における波浪特性をとりまとめることを目標とした。
その結果、冬季日本海領域のように、卓越した季節風の影響から風域場が固定され、十分に長い吹送距離を持った風が長時間にわたって吹き続けるような状況が続く場合、実用簡易化したWilsonモデルを用いることにより、簡易にある程度の精度を持った概略値を求められることがわかった。また、現地観測値とともにSWANによる推算値を用いてデータを整理することで、不足データを補うことが可能になり冬季日本海沿岸、特に新潟県沿岸域における地域性(風特性・波浪特性)についてとりまとめることができた。
要旨( PDF形式, 191kb )
-
河口域を対象とした波、流れ、地形変化に関する研究
星野 雄亮
平成16年7月13日の新潟県の豪雨災害では、五十嵐川(三条市)、刈谷田川(中之島町)、猿橋川(長岡市北部)において河川の堤防決壊による洪水被害が発生した。一方、阿賀野川流域では洪水氾濫による被害は発生しなかったものの、土砂災害は散発的に発生し、水位・流量ととも警戒値を大幅に越えた地点がある。
阿賀野川下流部の治水安全上で課題の1つとして河口砂州が挙げられる。阿賀野川の河口砂州の問題点として、まず、砂州による河口閉塞により、洪水時に水位が上昇し、水害が発生しやすくなる。さらに、砂州に土砂が溜まることにより、河口部付近の飛砂、船舶の安全な航行への支障などの影響がある。また、豪雨時には、フラッシュ現象という川の水が勢いよく流れることによって、砂州は削られる。砂州が取り除かれると、塩水遡上が発生し、塩水による取水施設への被害が懸念されている。また、河口部に住む生物への影響がある。河口砂州の動態を理解することが重要である。
本研究では、数値シミュレーションを用いて、モデル地形の河口域の波、流れを表現する。さらに、多方向不規則波と海浜流による漂砂を使い、河川を加えた地形変化を行い、河口砂州を表現することを目的とした。なお、フラッシュ現象により砂がなくなった状態から、海岸波動モデルによる冬季での砂州形成を再現する。
数値シミュレーションには、より実海域に近い多方向不規則波を用いた。波浪緒元により、まず方向スペクトルのプログラムに代入し、次にそのデータを造波信号の作成プログラムからデータを出力する。そのとき各造波境界上の水位の時系列とし、多方向不規則波は成分の重ね合わせとして表示する。また、波を修正ブシネスク方程式によって再現した。そして底質移動とこれに伴う海底地形変化の計算は、浮遊砂と掃流砂を考慮したベイラードによって提案されたモデルを用いて行った。
以上に示した計算を時間発展させる際には、1ステップ内で波動場、海浜流場、底質移動及び海底地形変化の計算をすることで、各要素が互いに影響を及ぼし合うため、実現象により近い現象が計算機上で再現できるようになっている。
結果として、河口域のモデル地形ではあるが、冬季での砂州形成を表現することができた。さらに、河口砂州が形成していくことを時間的、空間的に把握することができた。
要旨( PDF形式, 172kb )