- はじめに
1999年8月から翌年8月までの一年間,文部省在外研究員としてフロリダ大学工学部海岸・海洋工学科
(現「土木海洋工学科」)に赴任した.
場所はフロリダ半島北部の中心部Gainesvilleという街である.
今回は研究で収集した資料を基にフロリダの海岸環境について簡単に概要を紹介する.
- フロリダの概要
フロリダはどちらかというと東岸が有名で,Miamiの他,Daytona,Kennedy Space Centerなども東岸に位置する.
3方向で海に囲まれ,東岸で大西洋,西岸でメキシコ湾に接する.
半島から海へは主要な5河川が流入し,河口から膨大な量の砂が供給されているので,
場所によって侵食海岸と堆積海岸に大きく性質が異なる.
全体的に日本の海岸よりも砂浜幅が大きいので,防災に対する意識が日本とは異なる.
例えば景観に配慮して離岸堤は設置しない.また堤防を設置しても親水性に重点を置き,
容易に浜に行けるように歩道をつけたりしている.
- 気候および植生
気候は亜熱帯性である.
冬季は乾燥するが,夏季はほぼ毎日雷雨となる.
通年で全域にわたり高温多湿だが,冬季には北部の内陸部で放射冷却により氷点下になる.
樹木は巨大で,ジャングルのような植生である.
以前映画「ターザン」の撮影がフロリダ北部で行なわれたこともある.
- 陸地の水環境
高低差は小さく,最大で200mの平坦な地形である.湿地帯が多く,
至るところで湧水している.これらの水が束ねられて巨大な河川となり海へ流入している.
水温が一定でしかも水質が良好なため,古代魚ガーやマナティが棲息する貴重な地域である.
またワニも多数棲息しており,迂闊に水に入るのは危険である.
近年,全米から人口が集中しており,乱開発による湿地帯の埋め立てにより,
生態系に影響が出てきていると指摘されている.
- 海岸付近の環境
- 大西洋側(東岸)
半島東岸の大西洋側では,南部と北部で海岸の性質は大きく異なる.
北部はSt. Johns 川から供給される豊富な漂砂により,堆積海岸である.
ここでは前浜幅が広い.また砂の粒径が小さく細かいのでよく締まり,乗用車が走行可能である.
ところが半島ほぼ中央のCape Canaveralより南部は一転して侵食海岸となる.
そこでは,侵食速度が早いために年間$300,000,000(約320億円)かけて海底より浚渫した砂を利用して
海岸を養浜している.
- フロリダ海峡(南岸)
FloridaとCuba協和国の間にある海峡で,ここでメキシコ湾と大西洋との海水交換が行なわれている.
フロリダ以南20kmくらいまでは水深が10m未満で,島が点在するFlorida Keysである.
Keysの先端には『老人と海』で著名なHemingwayが晩年を過ごしたKey Westがある.
Keysは特に温暖な水域で,冬季でも摂氏20度を超えるため海水浴が可能である.
この海域にはサンゴが棲息し,サンゴから生成された砂(Coral Sand)も海岸に多く含まれる.
温暖遠浅なので海中生物が多く,またマリン・レジャーも盛んである.
観光シーズンは冬季で,全米から人が集まるが,それでも日本のような雑踏にはならない.
- メキシコ湾側(西岸)
南部では砂が豊富であり海岸幅も比較的広い.この地域の特色は白く細かい砂である.
特にフロリダ第二の都市Tampa郊外にあるClear Waterでは白い砂と綺麗な水で有名な
海水浴場である.
北部では他の海域とは大きく異なり,マングローブ及び湿地帯が卓越した海域である.
- 近年の研究の傾向
フロリダは海岸漂砂が卓越した海域なので,主に波浪による漂砂について研究が行なわれてきたが,
近年は化学的・生物学的要素を含めた水質問題が着目されている.
また,それに関連して領域も限られた小領域から大領域化している.
今後益々広領域全体で環境問題を扱うようになるものと考えられる.
- おわりに
アメリカの海岸環境・防災対策は,人口・土地,侵食・漂砂問題に関連して日本とかなり異なるという
印象を受けた.ところで,赴任中はアメリカ国内に限らず,Bahamasやカリブ海等できるだけ多くの海域
にも行った.特にVirgin諸島の海は,今後の研究活動での理想と考えるくらいに感動を覚えた.
1年間という短期間だが,日本では経験できない多くのことを経験できたと思う.