- 波浪推算モデルを用いた新潟県沿岸域の波浪特性の解析
上村 雄一
新潟県沿岸を含む日本海では特に冬季の強い季節風により高波浪が発生する.これにより,高波浪による海岸浸食や船舶の出港不可,越波による道路や家屋への浸水被害が発生しており,これら諸問題の対策のための保全・改良事業が行われている.これらの事業の計画時には,まずその海岸の波浪特性を把握することが重要であるが,新潟県内での波浪観測データは新潟と直江津の2箇所のみで入手が可能であり,その他の海域では観測の実施や数値計算などを行い,新たに波浪特性を把握する必要性がある.
本研究では、数値計算により新潟県沿岸域の波浪特性を求めることとし,海岸工学の分野で実務的に用いられている第三世代波浪推算モデルSWAN (Simulating WAves Nearshore)を用いて冬季における日本海沿岸域の波浪推算を行い,新潟県沿岸域での波浪特性の把握を試みた.
最初に波浪推算モデルSWANの新潟県沿岸域における波浪を再現できているか検証するため,波高と波向においてNOWPHAS(全国港湾海洋波浪情報網)の観測値と推算値を比較した.その結果,対象期間において波高,波向の傾向を再現できることを確認した.SWANの推算結果を新潟沿岸域の波浪特性の解析に用いた.
次に、気候図の検討により,日本海全域で北西からの強い季節風が吹き,冬型の気圧配置が強まることで高波浪が発生することが確認された.日本海全域および新潟県沿岸域の波浪特性は,波高分布と波向図により検討を行い,対象期間とした冬季には十分に長い吹送距離と吹送時間が得られることにより高波浪がもたらされていることが分かった.新潟県沿岸域では角田浜や新潟沖を含む地域で佐渡の遮蔽効果等の影響が確認された.新潟県沿岸の各地点における考察は以下の通りである.糸魚川港付近では能登半島の影響を受けて,他の地点とは異なる西北西の波向が卓越する.能登半島からの回折波は糸魚川に西からの波として入射するものと考えられる.直江津では北西からの波が著しく卓越し,地域性が見られた.柏崎,寺泊,新潟の沿岸では佐渡からの回折波の影響で波高が小さくなる.角田浜は佐渡の影響を特に受けて周辺の地点に比べ,波高が小さい.村上は地形的な影響が少ないため,日本海で発達した波浪がエネルギー損失の少ない状態で入射するため高波浪が発生しやすい.
以上より、SWANが新潟県沿岸域における波浪を再現でき、新潟県沿岸域における波浪特性を把握することができた。
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阿賀野川河口砂州のフラッシュ現象に関する数値解析
佐藤 啓明
一般的に河川における河口砂州は流下能力の低下を招き,出水時に危険である.一方で通常時は塩水遡上を低減する側面もあるが,それにもまして出水時の危険に対する懸念が大きい.大流量による出水時には,河口砂州が水によって流され河口が拡大する.これをフラッシュ現象と呼ぶ.このフラッシュ現象により河口砂州の流下能力は拡大する.治水安全上,出水時にはフラッシュ現象により,河口幅の拡大,流下能力の拡大が必要であるといえる.しかしながら治水安全上の重要なキーワードであるフラッシュ現象は,大規模かつ短い時間に起こる現象であり,観測なども難しく,そのメカニズムも解明されていない.
本研究の対象である阿賀野川においては,これまでおよそ5,000m3/s以上の流量でフラッシュされていたが,平成14年の台風6号のときには砂州は削られたが,大規模なフラッシュとまではいかなかった.そのため河口閉塞を起こし,下流部では警戒水位を超えるところも出た.このように阿賀野川河口砂州は洪水時には十分に安全な状態とは言いきれないのが現状である.安全でない場合には砂州の管理も考えなければならない.
そこで本研究では河口砂州の適正な管理のキーワードとなるフラッシュ現象を対象として,実地形を用いた平面2次元の数値計算によるシミュレーションにより,フラッシュ現象の定量的な把握,および危険性の比較検討など行うことを目的とする.
シミュレーションには平面2次元の連続式と運動方程式をもちいて流れと水位の計算を行う.また砂の移動は,掃流砂と浮遊砂といった一般的に知られるモデルを用いて行った.計算には上流端の境界条件として横越観測所の流量データ,下流端の境界条件として新潟西港の潮位データを用いた.境界条件はそれぞれ,平成14年台風6号のものと,平成16年新潟・福島豪雨のものを使用した.
また計算モデルについては松ヶ崎水位観測所の水位の観測値と計算値を比較することで検証をおこなった.本研究ではその計算モデルを用いてフラッシュするときとフラッシュしないときの計算を行い,水位などを比較した.
その結果,フラッシュしない場合は,フラッシュする場合に比べ,水位が大きいところで3m以上高く,堤防高さとほぼ同一の値をとる場所もあり,大変危険であることがわかった.またフラッシュ現象により地形は大きいところで5m以上削られるといった,砂の移動についても定量的に把握することができた.
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数値解析による煙型雪崩のハザードマップの作成
中川 大介
日本の気候は世界でも非常に大きな特色がある。それは四季の変化が激しいという点であり、その気候は人々の生活に大きな影響を与えている。日本は中央に大きな山脈が存在するという地形的特長があり、その中央山脈を隔てた日本海側と太平洋側では、季節風や海流の関係などにより、気候に大きな違いが出ている。その中でも特に大きく違うのは冬季の降雪量であり、日本海側は世界でも有数の豪雪地帯となっている。豪雪地帯に指定されている範囲は広く、その箇所の人口は日本全体の人口の約2割を占めている。
また、日本は国土の7割を山林が占めており、集落や構造物が山岳地帯に多く存在している。これらのことから、多くの人が雪崩の危険にさらされているといえる。実際に、集落が対象となる雪崩の危険箇所は全国で20,501箇所が存在する。
日本の中でも特に新潟県は、平成18年には4mを超す積雪を記録するなど全国でもっとも積雪量が多い地域である。また、雪崩の発生危険箇所数も1,500箇所を超え、日本全体の危険箇所の多くを占めている。そして、新潟県の中でも特に積雪量や雪崩の被害が多いのは中越地方である。この中越地方に位置する長岡市の旧山古志村は山間部に位置し、人々は急斜面のすぐ近くで生活しているということができる。積雪量の多さとあわせて旧山古志村は、非常に雪崩の危険性が高い地域といえる。実際にこの地域では、1981〜1990年の10年の間に、集落が巻き込まれた雪崩だけでも4件、2名の死者が出ている。さらに平成16年の中越地震により植生や雪崩防止フェンスに大きな被害を受けており、雪崩の危険性は現在、これまで以上に高まっているといえる。
このような雪崩の被害を未然に防止、あるいは小さなものにするためには、発生する危険性のある箇所、あるいは実際に発生した際危険である箇所を事前に調査や予測を行うことによって知り、それを住民に周知することが重要である。そのために、3次元地形を入力データとし、煙型雪崩の高さ、速度、粒子の濃度、乱れエネルギー、そしてそれらの結果より計算対象領域の雪崩の危険性を解析することが可能である数値シミュレータを開発した。またその数値解析の結果を元に、雪崩の到達する範囲や頻度を実際の地図上に図示することにより、ハザードマップとすることを目的とした。
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三宅島の火砕流に対するハザードマップの作成
厚田 和紀
火山噴火は,地震同様,私たちに脅威を与える自然災害の一つである.日本には,無人島,海底火山を含め,108の活火山がある.これら活火山の活動が活発になり,噴火その他の異常現象が発生すると,ときには災害をともなうことがある.噴火に伴う異常現象には火砕流,溶岩流,火山泥流などがある.特に火砕流は1991年雲仙普賢岳の噴火の際に発生し,大きな被害を与えたため重要視されるようになった.そして、2000年,三宅島噴火の際にも火砕流が発生した.
火砕流とは,軽石・スコリア・火山弾・岩塊・火山灰などの破片状火山噴出物(すなわち火砕物)や溶岩片など,高温状態にある大小の噴出物破片が一団となって,高速で斜面を流下する現象である.火砕流は,ガスと,粉体化する岩石破片との高温混合物であり,その高温(一般に1000℃程度まで)と,高速(時速200q以上も稀ではない)のために,事前の避難以外に逃れることは極めて難しく,火山災害の中でも最も危険な現象の一つである.
雲仙普賢岳での火砕流発生により,危険性が注目され,火砕流の研究が行われるようになった.既存の研究では,1992年,福嶋・鍵山によって火砕流の流体力学的モデルによる解析,サーマル理論に基づく火砕流の数値解析が行われ,2002年には,浅野・福嶋により1次元解析による流動シミュレーションが完成している.そして,2003年には,大澤・福嶋によって2次元解析による火砕流の流動シミュレーションが完成し,より精密に解析できるようになった.しかしながら,この流動シミュレーションを応用したハザードマップなどが作られていない.火砕流がひとたび発生すれば,人為的被害をもたらす可能性がある.そこで,高速で流下する火砕流から身を守るためには,事前の予測結果を示した火砕流のハザードマップ作成が必要である.ハザードマップとは噴火によって火砕流が発生した場合の到達予測結果に基づいて作成された地図である.火砕流の流下範囲とその程度を示し,生活している地域や住まいの危険度を知り避難等に役立てるものである.
火砕流による被害を未然に防止するために,火砕流の流動特性を十分に把握し,流下範囲の予測および周知することが重要である.そのため,本研究では大澤・福嶋の流動シミュレーションを用いた,三宅島の火砕流ハザードマップの作成を目的とした.
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中層密度流の挙動に関する室内実験と数値計算
垣内 浩志
密度流とは、二種の流体の密度差が起因となり発生する流下・上昇運動であり、自然界に
おいては頻繁に発生している。例として、ダム貯水池に流入する濁水が挙げられる。貯水
池に流入した濁水は密度躍層に到達すると、下層流体より小さいものは躍層に沿って進入
するという現象が起こる。この現象を中層密度流の貫入現象という。中層密度流を形成す
る濁水は、躍層の上下流体の中間の密度をもつ。中層密度流のフロント形状は貯水池水の
密度分布と濁水の密度、流量の関係によって決まる。本研究では、この中層密度流現象に
焦点を当て研究を行う。中層密度流現象は、塩分濃度により作られた周囲水に中間の密度
の塩水を進入させて再現した。実験で得られたデータと数値計算から得られる結果とを比
較し、流動特性や挙動の違いを解明することを目的とする。
実験は、周囲水や濁水の密度、流入条件を変化させた実験について行った。
実測値において、種々のデータは周囲水と濁水の密度差に左右されることがわかった。密
度流先端部層厚は密度差が小さいほど大きな値を示し、移動速度は密度差の大きいものほ
ど速いという結果を得た。先端部形状は、二層界面の場合は上下非対称で特徴的な膨らみ
とくびれを呈しながら進行する。
数値計算と実測値の比較では、SOLAアルゴリズムを用いた流れの直接数値シミュ
レーションを行った。比較した結果いずれにおいても実測値が計算値を下回る結果となっ
た。この理由として考えられるのは、実現象と数値計算との条件の違いである。実現象に
おいては、流入時の状況、躍層の状態、先端部の形状抵抗、摩擦抵抗、周囲水の混入、逆
流などが複雑に作用している。このようなことがの結果よりも実測値の流速が遅くなる原
因であると考えられる。
本研究により得られた結果は、周囲水の状態が二層界面の場合、先端形状は非対称で特
徴的な膨らみとくびれを持っており層厚および移動速度は流入直後の一定区間は以降はそ
れほど変化しないことがわかった。実測値と理論値の比較では、種々の条件を考慮しない
限り実現象を説明することは難しいことがわかった。
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新潟県沿岸域の海浜事故に関する基礎的研究
木下 茂生
毎年,海水浴中の海浜事故が多発している.浅海域での事故の要因として,1つに離岸流が挙げられる.砂浜海岸では沖方向の非常に速い流れが発生し,近年では,突堤や離岸堤などの海岸構造物が増加しているため,それらが起因する離岸流も重大事故の原因となることが指摘されている.本研究では,新潟県沿岸の海岸構造物付近での離岸流の物理的特性を明らかにし,今後の離岸流の研究に役立てることを目的とした.
まず,事故の発生状況を把握するために,新聞記事データベースより過去の事例調査を行った.その結果,新潟県沿岸全域で離岸流事故が発生していることがわかった.また近年問題視されている海岸構造物付近でも事故が発生していた.事故発生時のアメダス風向データでは,北からの風と大陸からの風が多く吹送していたが,特に卓越した風は特定できなかった.波浪データでは,新潟県全域で北〜北西からの波が入射するときに事故が発生していることがわかった.ここで用いる波浪データは,港湾空港技術研究所のナウファスである.
以上より,アメダス風データとナウファス波浪データとの相関性が低いことがわかったので,本研究では計算による風データを用いて波浪との比較を行った.今回用いる風データは,ECMWF(ヨーロッパ中期予報センター)である.比較の結果,波向は風向に関わらず西〜北北東の間で入射し,風向と偏角を比較すると,風向に因らず主に北北西からの波向が卓越することがわかった.波高の経時変化では,波高1m未満で,急激に波高が変化する前後に離岸流が頻発することがわかった.
そこで,波向が北北西で波高1m未満時に,実際に現地観測を行った.観測は柏崎市椎谷漁港横の突堤で,フロート観測とGPSフロート観測を行った.
観測より,渦を巻く循環流と汀線から直進する離岸流が発見された.循環流は最大流速0.67m/sで,汀線付近から発生していた離岸流は,最大流速が1.58m/sにも達していた.また,離岸流計測時の風向と波向を比較すると,同様な気象・海象条件となっていることも判明した.
本研究では,新潟県沿岸にも離岸流が発生していることや,その規模を明らかにすることができた.また,気象・海象条件から離岸流の予測が可能になった.今後は,各地で観測を行うことにより新潟県沿岸の離岸流の特性を把握し,それらの情報を一般の人々に提供することで今後の海浜事故を防止することにつながると考えられる.
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室内実験による洪水氾濫数値計算の妥当性に関する研究
名古屋 大介
わが国では国土の10%が洪水氾濫区域でありそこに総人口50%,全資産の75%が集中している.そのため洪水により被害を受けやすい状況にある事がいえる.近年のわが国では,異常気象が原因と考えられる治水処理施設レベルを超えた豪雨により洪水災害が各地で頻発している.これから先も洪水災害に対しての警戒が必要であり,被害軽減のためにも早急に対策を講じなければならない.対策はハード(工事を伴う),ソフト(工事を伴わない)の両面が必要であるが,ここでは本研究と関係のあるソフト対策について述べる.
ソフト的な対策のひとつとして,洪水氾濫シミュレーションによる危険箇所の把握や洪水の模擬体験が挙げられる.シミュレーションから洪水氾濫に対する対策や準備を行おうとするものである.しかしながら,洪水氾濫シミュレーションの妥当性について実地に検証することは極めて困難である.そのため,シミュレーションが本当に正しいのかという疑問が残る.既往の研究では,水害後に痕跡水位を調査し氾濫流の最大水深を調べるのが限界であり,氾濫流の時間的変化を調べることは困難である.
本研究では,検証が困難な洪水氾濫数値モデルに関して,1メートル四方程度の小さな室内実験によってモデルの妥当性を検証した.洪水という大規模な自然現象を小さいスケールで考えることにより,模型による室内実験を可能にした.ベニヤ板に穴を開けその穴から水が出てくるように作成した.穴から出てくる水を氾濫流と仮定して水の挙動を調べるものである.実験による氾濫は真上からビデオで撮影し,その広がりの速さを求めるとともに,画像解析処理を用いて流速値を計測した.水の広がり方は実験で得た画像を,計算で得た画像を重ね比較した.流速は合計6地点で実験値と計算値の比較を行った.
実験と計算の比較を行った結果,広がりの速さは概ね妥当であり,流速値は実験よりも計算の方がやや速くなることが分かった.本研究では,流速を計測するために意図的に流れに粒子を入れたがこの粒子が影響して実験値と計算値に誤差が生じたのではないかと考えられる.
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