Summary of Thesis

2006年度(平成18年度)
修士論文、課題研究(卒業論文)概要

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  1. 海浜事故防止のための新潟県沿岸域の波浪特性の解析

  2. 小原 敏秀

    海水浴は小さな子供から大人まで多くの人々に楽しまれているマリンレジャーである。しかし、海水浴中の水難事故も毎年多数発生しており、海上保安庁によれば、平成18年度の人身事故者数は全国で2,931人であり、死亡事故などの重大事故も毎年起きている。新潟県内でも海浜事故は発生している。
    海浜事故の要因としては様々なことが考えられるが、その1つに離岸流が考えられる。離岸流とは、一般に陸から沖に向かう強い流れのことを指す。岸の近くでは、波向きに応じた岸に平行な沿岸流が生じているが、あるところではこの流れが沖方向に向きを変え、非常に速い流れとなっている。これが通常発生する離岸流である。従来の離岸流では、汀線が円弧状に屈曲している場所、あるいは崖などの入り組んだ場所に発生するものとされていたが、近年では突堤や離岸堤などの人工構造物が増加しており、それらが起因して発生する離岸流が重大事故の原因となることが指摘されている。しかし、離岸流に関する研究はまだ浅い段階にあり、明確なメカニズムはまだ知られていないのが現状である。そのため離岸流に関する研究として、現在、仮想地形を用いた地形での実験及び数値シミュレーション、現地での観測が行われている。また離岸流は地形、気象といった条件により発生場所や規模が異なることが知られていることから非常に難しい流れであることが知られている。
    本研究は、離岸流のメカニズムの解明を目的に、地形と波浪特性の条件から離岸流の生成機構との関係を把握するため、仮想地形を用いた地形での数値シミュレーションを行った。仮想地形には、人工構造物周辺での離岸流の生成機構を解明するために新潟県の海岸部に多数見られる突堤付近を対象とした。仮想地形での入力条件を変化させ波浪特性との関係を検討した。
    波浪特性には波浪推算モデルSWANを用いて、夏季の新潟県沿岸域における波浪特性を把握し、青山海岸を対象とした数値シミュレーションの入力条件とした。
    その結果、突堤付近では、海岸に対し40°以上の角度の波向きのときに突堤の真ん中から先端に向けて離岸流が発生していることがわかった。角度がある波向きのときには沿岸流が起き、その流れを突堤が防ぎ沖向きの流れが発生することがわかった。SWANでは夏季の新潟県沿岸域の波高と周期について波浪特性を把握することができた。

    要旨( PDF形式, 145kb )


  3. k−ε乱流モデルを用いた中層密度流の解析

  4. 増戸 洋幸

     洪水時に河川流域から生産される多量の微細砂(200μm)を含む濁水が成層した貯水池に流入すると,密度躍層に到達した濁水はそれ自身の密度分布と貯水池水の密度分布の相対的な関係により,流入濁水の一部またはすべてが躍層界面に沿って水平に向きを変えて,楔状に貫入する.これを中層密度流と呼ぶ.中層密度流は,濁水長期化の主たる原因として挙げられ,下流水域の環境問題や堆砂問題と密接に関係している.中層密度流の流動特性を明確にすることにより,このような問題に対して効果的な対策を講じることが期待できる.
     Kao(1977)は理論的に中層密度流の先端移動速度を求めているが,非粘性流体の仮定に基づいているため,実現象を精度良く再現できてはいない.そこで本研究では,乱流特性量の計算に乱流運動エネルギーk と分子粘性逸散率εを未知数とするk−ε乱流モデルを用いて中層密度流の数値解析を行った.プログラムの妥当性を検証するために福嶋(1981)の行った二次元貯水池密度流の実験結果と比較を行った.その後,流入流体と下層流体の密度を変化させた中層密度流の実験結果との比較を行い,計算モデルの妥当性を検証した.次いで,中層密度流の流動特性の解明のため流速ベクトルと濃度コンターを求めた.
     中層密度流の先端移動速度と先端部厚さについて,数値計算結果は実験結果とよく一致した.また,流入流体と下層流体の密度の変化による傾向の違いがみられた.
    流動特性に関して,流入流体の密度が増加すると先端部の形状は下部にふくらみをもちはじめ,上層の流速ベクトルによる循環流は徐々に弱くなり,下層において進行方向とは逆向きの流速ベクトルが発生し大きくなることがわかった.また,下層流体の密度が増加する場合,先端部の形状は下部のふくらみが徐々になくなり,上層の循環流は強くなり,下層における逆向きの流速ベクトルは小さくなることが示された.
     理論的検討として乱流特性をあらわすパラメーターであるリチャードソン数を用いて計算結果の整理を行った.その結果,リチャードソン数が小さくなるにしたがって無次元層厚が大きくなる結果となった.これにより,実際の貯水池においても温度躍層と流入濁水の関係からリチャードソン数を求めることにより,中層密度流の層厚推定可能であると考えられる.
     以上の結果から,本研究で作成した数値計算モデルにより中層密度流の流動特性が明らかとなった.


    要旨( PDF形式, 711kb )


  5. 阿賀野川の河口地形変動が塩水遡上に与える影響

  6. 伊藤 亜矢子

    河口は海岸と河川が接する場所であり潮汐と河川流が互いに影響している.そのため,海水面の上昇により海水が河川内に遡上する塩水遡上が発生する.遡上した海水が農業用水や工業用水の取水地点まで到達すれば,農作物や様々な製造物に損害を与える.
    塩水遡上は河口地形の影響を受けると考えられるため,洪水によるフラッシュや冬季の風浪による発達など河口砂州の変動による塩水遡上の変化について調べる必要がある。既往の研究では,塩水遡上に関する研究が多くなされ,河川の水理諸量,河口地形,気象,潮汐等との関連性については多くの知見が得られてきた.これまでに不等流の塩水遡上については多くの知見が得られているが,非定流の塩水遡上を対象とした例はあまり無く,詳細な挙動については明確では無い.本研究では,阿賀野川河口部の地形変動に着目し,数値シミュレーションにより,砂州の有無が塩水遡上に及ぼす影響を定量的に把握する事を目的とする.
    本研究では、H17, 18年度の2年間に渡って阿賀野川河口部で計測した塩分,流量,水位,水温等の計測結果を元に,砂州の形状の違いが塩水遡上にどの様に影響しているか考察した.また,より詳細な検討を行うために1次元数値モデルで数値シミュレーションを行い,非定流の塩水遡上の挙動を算出した.
    計測データより,H17年とH18年の塩分と河川流量の関係から,流量が減少する時期に塩分量は増加し,流量が増加する時期に塩分量は減少する事が分かった.塩分と河川流量は密接な関係といえる.H17年とH18年の塩分量の差は明確には出ていなかったが,H16年の7.13水害での砂州のフラッシュより,H17年は,砂州は形成途中であり河口断面積が大きい事から,H17年の方が塩水は河道へ浸入しやすく,H17年の方は海水が多く遡上していると考えられる.次に数値計算の結果,砂州無しのと砂州有りの場合では,塩分水位の変化は砂州の地点での水位変化は見られたが,砂州を含まない地点での砂州無しと有りでの違いは見られなかった.また,塩水遡上の流速を比較してみると殆ど変化はしていなかった.
    本研究では,計測結果から砂州の形状の違いは塩分遡上に影響を及ぼす事が分かった.しかし,数値計算からは,砂州有無が,塩水遡上に及ぼす影響は見られなかった.今後,長期的にデータを取得する事により詳細の塩水遡上の動態を知る事ができると考えられる.

    要旨( PDF形式, 1,531kb )


  7. 中層密度流の貫入現象に関する室内実験

  8. 小川 直也

    密度流とは、二種の流体の密度差が起因となり発生する流下・上昇運動であり、自然界においては頻繁に発生している。例として、ダム貯水池に流入する濁水が挙げられる。貯水池に流入した濁水は密度躍層に到達すると、下層流体より密度が小さいものは躍層に沿って進入するという現象が起こる。この現象を中層密度流の貫入現象という。中層密度流は濁水長期化の主な原因として挙げられ、下流水域の環境問題や堆砂問題と関係があり、本研究室では継続的に研究を進めている。そこで本研究は中層密度流の挙動を解明することを研究目的とし、ダム貯水池内を単純化した室内実験を行った。流量、周囲流体密度を固定し、流入条件や流入流体密度を変化させ、挙動を比較考察した。また、流入流体中にトレーサー粒子(DIAION粒子,粒径250〜700μm密度1.02g/cm2)を混入し、Flow-vec32を用いて画像解析を行った。これにより、中層密度流の内部流速ベクトルが計測された。以下に実験結果の説明を行う。
    中層密度流の先端部形状は流入流体密度と周囲水の密度によって上に凸から下に凸へ遷移していくことがわかった。そして、流入条件によって先端部の密度が変化し、先端部形状に強く影響することがわかった。
    先端移動速度が急減すると層厚が急増する傾向があり、先端移動速度と層厚に相関性が見られた。そして、流入条件により流入直後の先端の挙動が大きく変化し、層厚に大きく影響することがわかった。
    内部流速ベクトルの計測において、今回は計測範囲を固定し、流速と層厚の時間変化が求められた。流速はトレーサーの粒径の大きさから沈降・浮上の影響を無視できないものとしてx(水平)方向の流速のみを取り扱い、また、層厚は計測点の数から算出された。x方向の流速、層厚ともに流入流体の密度変化に対し上記の先端移動速度と層厚の計測と同様の傾向が得られた。また、先端の流速が最も大きく、時間経過とともに層厚が大きくなるにしたがって流速が減少していくことがわかった。
    今後の課題は、密度分布の計測を行い、流入条件による混合の度合いを定量化すると同時に、さらに多くの条件で実験を行うことが必要だと考えられる。また、トレーサー粒子を上下層にも散布し、中層密度流内部だけでなく全層において流速ベクトルを計測することができれば更なる研究の発展が期待できる。

    要旨( PDF形式, 111kb )


  9. 新潟県における離岸流による海浜事故原因解明の為の基礎的研究

  10. 橋本 融

    近年,新潟県の沿岸域は土地利用の高度化に伴い,海洋性レクリエーションの場としての需要が増加し,マリンレジャーが多くの人々に楽しまれている.しかし,マリンレジャー中の海浜事故は毎年発生しており,問題となっている.海浜事故の要因として,1つに離岸流が挙げられる.離岸流とは地形や波浪条件が主な原因となって発生する沖向きの強い流れである.近年,突堤や離岸堤などの海岸構造物が増加したことにより,それらが起因する離岸流には未解明な点が多い.本研究では,新潟県を対象とした海浜事故の調査,現地観測を行い,波浪特性の把握,海岸構造物周辺の流れの規模,形態を明確にすることを目的とした.
    まず,事故の発生状況を把握するために2000年〜2006年の新聞記事データベースより過去の事故事例を集計した.その結果,新潟県沿岸全域において離岸流による事故が発生しており,その周辺は海岸構造物が見受けられ,危険性が高いことを示した.
    続いて,新潟県の波浪特性を把握するために港湾技術研究所のナウファスのデータを用いて,波向き,波高・周期について統計した.その結果,新潟県沿岸は北西〜北の向きが卓越しており,事故発生当時の波向きも北西〜北の波向きであったことから,新潟県沿岸全域で注意が必要である.波高・周期関係に事故当時の状況をプロットすると波高と周期に変動が見られた.変動が起きている時に事故が発生していると考えられ,波高も高くなっていた.また,気象・海象条件を比較し,風と波浪の関係を求めた.それより,波向きは風向きの影響に因らず必ずしも一致しないため,地形の影響が大きいと考えられる.
    以上の知見を踏まえ,夏季の事故日を想定し,波向きが北西〜北で波高0.5m〜1mの条件で現地観測を行った.観測場所は新潟県柏崎市椎谷漁港横の突堤と同市大崎海水浴場とした.前者は木下ら(2006)によって離岸流が確認された海岸であり,後者は比較的多く事故が発生している海岸である.椎谷漁港横の突堤周辺においては,海岸から直進する離岸流が発生し,沖合約200mまで流され,最大流速は0.97m/sであった.大崎海水浴場においては直径約60mの循環流が確認され,最大流速は1.38m/sであった.離岸流を確認した日は一日中波向きが北西と一定で波高が約1mであった.離岸流が確認できなかった日は波高が低く,波向きが様々な方向からの入射であった.このことから,離岸流は波高が高く,波向きが一日中一定の方向で入射すると発生する可能性が高いことが考えられる.
    本研究では,新潟県の2つの海岸において離岸流が確認でき,発生過程や規模が明確になった.今後も現地観測を繰り返し行い,離岸流の特性を明確にすることで海浜事故防止につながる.

    要旨( PDF形式, 248kb )



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