Summary of Thesis

2007年度(平成19年度)
修士論文、課題研究(卒業論文)概要

[ English ] [ Japanese ]

[ 水工研論文概要トップページ ] [ 研究室トップページ ]

[ 環境・建設系 論文要旨ページ ]


要旨」をクリックすると、 もう少し詳しい内容をご覧いただけます。


注意!!
要旨を閲覧するにはAcrobat Reader 等のソフトが必要です。
こちらからダウンロードしてください。



  1. 離岸流の発生の基礎的要因に関する研究

  2. 大橋 俊樹

     海水浴は小さな子供から大人まで多くの人々に楽しまれているマリンレジャーである.しかし,海水浴中の水難事故も毎年多数発生しており,海上保安庁によれば,平成18年度の人身事故者数は全国で2,937人であり,死亡事故などの重大事故も毎年起きている.海浜事故の要因としては様々な理由が考えられるが,その1つに離岸流が考えられる.
     離岸流とは,一般に陸から沖に向かう強い流れのことを指す.岸の近くでは,波向きに応じた岸に平行な沿岸流が生じているが,あるところではこの流れが沖方向に向きを変え,非常に速い流れとなっている.離岸流は,汀線が円弧状に屈曲している場所,あるいは崖などの入り組んだ場所に発生するものとされていたが,近年では突堤や離岸堤などに起因して発生する離岸流も指摘されている.また離岸流は地形,気象といった条件により発生場所や規模が異なることから非常に難しい流れであることが知られている.しかし,離岸流の明確な発生機構が知られていないのが現状である.そのため,仮想地形を用いた実験及び数値解析,現地での観測が行われ,離岸流の流速や規模,発生要因につて研究が行われている.
     本研究は,離岸流の発生メカニズムの解明を目的に,地形と波浪特性の条件から離岸流の生成機構との関係を把握するため,仮想地形を用いた地形での数値解析を行った.仮想地形には,一様勾配,カスプ地形,実地形には離岸流が確認されている新潟県の太夫浜を対象とした.波浪条件は.実際に事故が起こったとされる,平常時の波浪条件を基準とした.これらの条件を基に,離岸流の発生要因や特徴について検討した.その結果,有義波周期・有義波高は,離岸流の最大流速に影響を及ぼす要因であり,地形ごとに離岸流が卓越する値を持つことがわかった.また,カスプ地形における砂浜での凹凸が大きいものほど流速が速くなることがわかった.主波向きについては,離岸流の発生個所や沿岸流の規模に影響を及ぼす要素であった.その他にも,流速を定量的に評価することで,地形に応じた離岸流の最大流速を求めることができる指標を示すことができた.また,従来は水の収支によって離岸流が発生するとされていたが,離岸流内外部の水位差を調べた結果,離岸流は水位差によって発生していることがわかった.離岸流の発生領域は,常に水位が低く,水の収支ではなく循環した流れを形成し,常に沖向き流れを維持していることがわかった.

    要旨( PDF形式, 3,441kb )


  3. 阿賀野川の河口砂州の再生に関する研究

  4. 桐村 忠

    河口地形は、一般の洪水時の砂州のフラッシュによって、流出した土砂による河口テラスが形成される特徴がある。冬季では、河口テラスは、波浪、吹送流および潮流のような沿岸方向や岸方向への輸送力によって海岸に再配分される。
    阿賀野川の河口砂州は、2004年の出水でフラッシュが観測され、そして、近年は河口砂州が上流側へ押し込まれる形となったため、2008年に海岸侵食による被害が発生した。阿賀野川の河口砂州は下流部の治水安全上の課題の1つとして挙げられている。問題点として、まず、砂州による河口閉塞により、洪水時に水位が上昇し、水害が発生しやすくなる。さらに、砂州に土砂が溜まることにより、河口部付近の飛砂、船舶の安全な航行への支障などの影響がある。一方、河口砂州は塩水の遡上を抑制する効果や河口のおける生態系維持への寄与などの有用な面もあり、必ずしも除去されることが望ましいわけではない。それらを踏まえた適切な河口管理技術の進展が望まれている。そのためには河口の動態について十分な知見を得るということが重要である。
    本研究では、河口における波に応じて形成される海浜流と地形変化とを総合的に評価する細山田ら(2005)の数値モデルを使用した。これらは大変複雑であるため、本研究では入射波に正弦波である規則波を適用し、地形は2008年4月の深浅測量図から実地形を作成した。実地形での土砂の基本的な動作特性を把握するとともに実際の現地である阿賀野川河口の2009年4月の汀線図との比較を行い、計算モデルの妥当性を検証した。 入射波に新潟西海岸のエネルギーピーク波に対応した、波高4m、周期9秒の一定値を岸に対して90°に入射させ、10時間の計算を行った。砂州は時間と共に河川の上流側に押し込まれる結果となった。2009年4月の汀線図と比較すると、砂州が河川の上流側に押し込まれていくという現象は一致した。砂州の形状については今後検討する必要がある。
    土砂の移動特性に関して、底面流速が増加するとその先の地盤高は増加しはじめ、その場所で土砂が移動していくことが示された。
    以上の結果から、本研究で計算した数値モデルにより河口砂州の特性が明らかになった。今後の課題としては、初期条件の設定を実現象に近づけていく必要があると考えられる。


    要旨( PDF形式, 148kb )


  5. 平成16年中越水害に対する阿賀野川河口砂洲のフラッシュの再現に関する研究

  6. 久保田 雅哉

     河口砂洲におけるフラッシュ現象とは,洪水などの大流量によって砂洲が沖へ流される現象である.治水安全上,フラッシュ現象の動態を把握することは非常に意義があることだと考えられる.とくにフラッシュ現象とは短期的に起こる現象であり,観測での動態の把握が困難である.今回対象とする阿賀野川の場合,砂洲の形成と侵食のバランスは今のところ保たれている.しかし河口に砂洲が存在することによって流下能力に少なからず影響を与えている.
     本研究の目的は,阿賀野川において河川流量7000m3/sを越える大流量を記録した平成16年の中越水害による洪水を対象とし,阿賀野川河口域の砂洲のフラッシュの動態を正確に再現することで,洪水時における砂洲の影響を評価することである.
     研究方法は主に,既往の平面2次元数値計算によるシミュレーションモデルの改良である.同時に,計算の初期条件となる平成16年中越水害時の河川流量,海岸潮位,河床粒径などのパラメータを導出した.具体的には主に,メッシュサイズを細分化し,水位上昇による砂洲への水の乗り上げと,横断方向の河床の侵食を計算モデルに追加するなどして,砂洲の動態をより詳細に再現した.
     また,計算結果と中越水害出水後の観測結果を照らし合わせ,定性的に砂洲フラッシュの評価を行った.観測結果は痕跡高,出水後の砂洲汀線,河口部横断地形,河口テラスの河床コンターがある.その中で,初期データや観測値の誤差もあり定量的には評価できなかったが,定性的には十分満足できる計算精度となった.  計算結果では,砂洲の動態を,平面図,横断図,縦断図,3次元図で表し,洪水時における河道の変化を確認した.また,砂洲フラッシュが起こらない場合の洪水計算も行い,フラッシュが起こる場合と比較することで,洪水流に対する砂洲の影響,フラッシュが起こらない場合の危険性を評価した.
     最後に本モデルで使用した掃流砂理論,浮遊砂理論の考察と,より厳密に河床移動を再現するために必要な,混合粒径モデル,斜面崩落モデルについて考察した.斜面崩落に関してはメッシュサイズや河床高などが影響するため,今回の計算では起こらないことがわかった.

    要旨( PDF形式, 671kb )


  7. 数値解析を用いた中山間地における雪崩ハザードマップの作成

  8. 松永 扶有子

     日本は本州日本海側を中心とした豪雪地帯において,その人口が全体の約2割を占めている.また,国土の約7割が山林であるため,豪雪地帯でも山間部に集落や建造物が点在している.このような地域では厳冬期から比較的温暖な春先にかけて家屋被害や道路閉鎖など様々な雪崩災害が懸念される.
     雪崩被害を軽減するには運動モデルの構築が重要となる.数値解析により雪崩の運動を再現できれば,その解析結果を防御施設の設計や,ハザードマップ作成に反映させることが期待できる.また,ハザードマップに雪崩の流下経路や到達距離を考慮することができれば,防災上の汎用性が向上する.
     本研究では数値解析によって得られた雪崩の流下経路や到達距離を考慮した雪崩ハザードマップの作成手法について検討した.対象地形は中越地震によって大規模な地形変化が発生した旧山古志村周辺のエリアとし,LPデータより作成した10mメッシュ地形データを用いた.
     運動モデルについては福嶋・大澤の手法を適用した.このモデルは雪崩本体の雪の取り込みや離脱を考慮し,雪崩内の雪量の増減や本体形状の変化に伴う運動エネルギーへの影響を評価することが可能である.また,計算に用いる基礎方程式が単純な常微分方程式で構成されるため,演算時間が短いという利点も有する.しかし,このモデルには多くの仮定条件が含まれ,精査の必要なものも多い.本研究ではハザードマップを作成する上で重要となる到達距離に対する影響が大きなクーロン摩擦係数について,既存の実績統計モデルを参考に精査を図った.
     ハザードマップの作成については等間隔で仮想発生地点を設定し,繰り返し運動シミュレーションを実施することで,雪崩が通過した回数を地形メッシュごとに集計し,この通過頻度によって危険度の評価を行った.その結果最大広がり幅に関する無次元係数の設定により危険エリアが変化することを確認した.また雪崩の最大速度の下限値を設定した場合は,設定しない場合に比べ危険エリアが減少した.
     今後はハザードマップの精度を高めるため,数値解析条件について実績データの収集や,実験などによって精査する必要がある.こういった解析条件を総合的に見直し,運動シミュレーションモデルの精度を高めることができれば,本研究で提案した手法によって作成されるハザードマップの汎用性をより高めることが期待できる.

    要旨( PDF形式, 534kb )


  9. 韓国泰安近海で発生した原油流出事故における原油の拡散解析

  10. 河口 昌輝

     自動車や飛行機などの交通手段の燃料、暖房機具やボイラーなどの外燃機関の燃料、プラスチックやゴムなどの石油製品など、石油は私たちの生活にとってなくてはならないものである。近年の原油価格高騰の影響によるガソリンや食料品を始めとする様々なものの価格が上昇していることからも、私たちの生活における石油の重要性がわかる。その石油の大部分はタンカーによって輸送されている。しかし、人為的なミスや悪天候によるタンカーの座礁などの油流出事故が絶えない。油流出は大規模な環境破壊に繋がることがある。
     2007年12月7日 7:15ごろ、香港船籍のタンカー「ハーベイ スピリット」号と海上クレーンを積んだタグボートが韓国忠清南道泰安郡近海(北緯36°49.93分 東経126°2.46分)で衝突 し、積載された原油302641KLのうち12547KLが流出した。韓国における油流出事故の最大の被害があったとされる、シープリンス号油流出事故による流出量は7200KL。島根県隠岐島沖で発生したナホトカ号の事故による流出量は6,240KL。今回はこれらの事故の2倍近くが流出した。そこで今回の事故による被害の把握、また今後同じような事故がおきた時に的確な防除作業を行うために、流出した原油がどのように拡散するかを把握する必要がある。そこで流出した原油がどのように拡散するかを把握することを研究の目的とした。
     対象地域では潮汐流も強いが、より吹送流が卓越していると考えられる。そこで準3次元モデルを作成し,吹送流による原油の拡散を数値解析した。基本式には連続式と運動方程式を陽的に差分化したものを用いた。これにより流出した原油の拡散計算を行った。
     本計算の解析結果より、原油は南へ拡散、移動することを確認した。その後、実現象と比較し対象地域では吹送流が原油の拡散に大きな影響を与えていることを確認した。また対象地域では冬季において季節風が強く、流出した原油は短期間で長距離に拡散、移動することを確認した。今後はより精度の高い風データ、地形データを用いた解析を行うことで高い精度の解析が出来ると考えられる。本研究では事故が発生した12月の1ヶ月間の拡散解析を行ったが、他の季節において解析することで今後の油流出事故に対する有効な対策計画の立案に寄与できると考えられる。その際、あわせて潮汐流や密度流を考慮する必要があるかを検討する必要がある。

    要旨( PDF形式, 183kb )


  11. 新潟県中越沖地震で発生した津波の挙動解析

  12. 成田 浩明

     平成19年7月16日に新潟県中越沖地震が発生した.この地震のマグニチュードは6.8,最大震度は6強を記録し,新潟県の中越地区,特に柏崎市周辺に甚大な被害をもたらした.この地震により,最大波高約30cmと小規模ではあるが津波が発生し,秋田県や石川県の沿岸まで津波が到達したことが観測された。この津波による被害は特に見られなかったが,甚大な被害をもたらすような大きな津波が来襲するのは,10年あるいはそれ以上の期間に一度という程度であるので,小規模の津波であってもその挙動を把握しておくことで,防災に役立てることが出来る.
     そこで本研究では,陸に挟まれた浅海域での津波の動態を把握するために,中越沖地震により発生した津波の数値シミュレーションを行い,その動態を再現して新潟県沿岸での津波の挙動を調べた.また,津波の屈折図を作成して津波の伝播状況を調べ,津波の集中する箇所も同時に調べた.津波の数値シミュレーションは,運動方程式と連続式を陽的に差分する手法を利用して計算を行った.また,津波の屈折計算は,波線の方程式を利用した波の屈折計算モデルを用いて計算を行った.
     津波を起こすための水位の変動量は断層モデルを用いて計算を行い,震源を中心として5×10kmの範囲を20秒かけて1.5m上昇させた.津波シミュレーションの計算結果は地震発生時刻から10秒ごとに可視化し,その伝播状況を調べた.また,屈折計算に関しては,震源から1度ごとに360本の波線を引いて波の屈折方向を調べた.計算領域は北緯37〜39°,東経137〜140°(およそ267,000×222,000m)の範囲を南北方向に約500m,東西方向に約420mのメッシュ間隔で分割した.震源の位置は北緯37°33′24″,138°36′24″である.
     計算結果より,津波のアニメーション,波高分布図,屈折図,柏崎と小木からの反射波の屈折図を作成した.その結果,新潟県沿岸の海域は,海底と海岸の形状が複雑なため,反射や屈折により津波が本州と佐渡の間を振動することを確認した.また,最大波高を記録した柏崎と小木の周辺に津波が集中することを確認した.このことから,数値計算の結果が実津波の挙動をよく再現できていることがわかった.さらに,佐渡海峡のような陸に挟まれた浅海域では津波が発生すると,津波が何度も押し寄せるため大変危険であるということがわかった.  今後の課題としては,精度を向上させるために断層モデルから決定する津波の発生させる範囲と変化させる水位について検討を行う必要がある.また,別の海域で実際に起きた津波に当てはめ,汎用性の検証を行う必要がある.

    要旨( PDF形式, 143kb )



[ 環境・建設系 論文要旨ページ ]



Copyright, 水工学研究室
環境・建設系
長岡技術科学大学
Nagaoka University of Technology