■津波調査イメージおよび遡上高を求める考え方 (レーザー距離計の場合)
◎現地調査イメージ
津波の痕跡高さを求めるにはいろいろな方法がありますが,私たちはレーザー距離計を使用しています.
レーザー距離計はカタログ上では水平距離1,000mくらいまでを計測可能とありますが,実用では500m程度です.
レーザー距離計には傾斜計も内蔵されており,ターゲットまでの直線距離の他に水平距離や鉛直距離(標高差)も計測する事が可能です.
(作業手順)(下図を参照してください)
1.津波の痕跡境界を探す.(急斜面が多く,被水後は土が緩くなっている上に掴む草木も少ないので,滑落など怪我に十分に注意する)
2.境界を見つけたらターゲットマーカーをセットしてレーザー距離計で水平距離および鉛直距離(標高差)を計測する.(無線機があると便利です) また,時間やGPSでの位置情報,状況を記録する.
3.次に,海面までの水平距離および鉛直距離(標高差)を計測する.(注意) また,海面までの距離を計測した時間やGPSでの位置情報,状況を記録する.
(注意)
レーザー距離計では水面を直接計測する事ができません.
まず,埠頭の上やテトラポッドの上にターゲットマーカーを置き,そこまでの距離を計測した後に,ターゲットマーカーから海面までの高さを測量棒などで計測します.
4.2つの計測値を合計すると,調査時の海面から痕跡境界までの高さとなる.(これはまだ津波高ではないので注意.下で説明します)
(図をクリックすると拡大します)
◎津波遡上高を求める考え方 (下図も参照してください)
上の作業で,2つの測量値を合計すれば海面から痕跡境界までの高さが求められますが,これは調査時の潮位からの高さであり,津波来襲時の潮位からの高さではありません.
また,海面からの境界までの高さなので,TPやDLなどの高さの基準へも数値を変換する必要があります.
そこで,下図に示すように,測量時の潮位と被災時の潮位を求め,その差から実際の津波の高さを求めます.
実際の津波遡上高
・海面からの高さ=測量高+(測量時潮位と被災時潮位の差)
・TPからの高さ=測量高+(測量時潮位と東京湾平均潮位の差)
(下図をクリックすると拡大します)
潮位は近くの験潮所で観測されている観測潮位を用いますが,今回のように大きな津波では三陸の大部分の験潮所が津波襲来時にダウンしており,観測値を用いる事は困難です.
こういう場合には潮位表などを用います.しかし潮位表が適用てきるのは大きな市街地がある数か所のみで,それ以外の場所では潮位表も参考にする事ができません.
そういう場合には,潮位推算をするしかありません.
当研究室ではNAO.99b(※)という潮位推算モデルを用いて各地点の潮位を推算しています.
(※) NAO.99b:
Matsumoto, K., T. Takanezawa, and M. Ooe,
Ocean Tide Models Developed by Assimilating TOPEX/POSEIDON Altimeter Data into Hydrodynamical Model:
A Global Model and a Regional Model around Japan,
Journal of Oceanography, 56, 567-581, 2000.
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下図は久慈における潮位表とNAO.99bとの比較です.
高さの基準はTP(東京湾平均潮位)に統一しています.
つまり,潮位表基準面は久慈ではTP面よりも72cm低いので,TP値に変換するために潮位表の値から72cmを減算しています.(下の『潮位に関する各基準面の関係』参照)
2つの下図のうち,上図は被災時(3月11日)の潮位変動,下図は調査時(4月3日)の潮位変動を示します.
上図をみると,潮位表水位とNAO.99bによる推算値と良く合っている事がわかると思います.
結果ですが,3月11日の最大波到達時の潮位は約-10cm(TP基準.一般的な標高値)でしたが,調査時の潮位は約38cm(TP基準)であり,被災時よりも約48cm水位が高くなっています.
よって,もし測量時の海面からの津波の高さが10mだとした場合,測量時は被災時よりも48cm水位が高くなっています.
計算例: 測量時の海面から痕跡の頂上までの高さが10mだったとする.
測量高: | 10m (測量時の海面から痕跡境界の頂上まで) |
測量時潮位: | 38cm (潮位推算より) |
被災時潮位: | -10cm (潮位推算より) |
津波遡上高=測量高+(測量j潮位と津波来襲時潮位の差)
津波高(TP,津波痕跡境界の頂上までの標高)=測量高+(測量時潮位と東京湾平均潮位の差)
より,
津波遡上高=10m+[0.38-(-0.10)]=10.48m (被災時の海面から境界頂上までの高さ)
津波高(TP)=10m+(0.38)=10.38m (TP, 標高)
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図- 震災時の潮位変動(2011年3月11日)
図- 調査時の潮位変動(2011年4月3日)
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